澄みきった青い空
それに映えるは白い雲
今の時期にしては暖かい太陽に目を細めつつ
隣に佇む人を見る
その人は最愛の…
月詠がやってきた!
なんでだ。
この言葉を叫びながら目覚めると、ルームメイトの龍宮は「うるさい」と殴りかかってき
た。
「おいおい落ち着けよハニー」
そんなことを言って落ち着かせてみたら、顔を真っ赤にしてモデルガンを持ち出した。
というわけで、朝からボコボコだ。
カモさんから聞いた、女性を落ち着かせる50の言葉。
今のところ、一回も役に立った覚えがない。
違う。
そんなことを考えたいんじゃなくて。
夢を見たのだ。
空や木々が、とても清々しい夢だった。
そして隣にはそう、最愛の人。
いい夢だ。とってもいい夢だ。
そこまでなら。
私は夢の中で、最愛の人に微笑みかける。
すると一陣の風が吹き、その人は鍔の長い帽子を押さえるのだ。
風に吹かれて揺れるスカート。
ごすろり…といった類のものらしいが、詳しいことを私は知らない。
長い鍔が風をはらんで、大きな帽子が空へと舞う。
その人は帽子を見上げ、眩しい太陽に目を細めていた。
私は帽子を追おうともせず、ずっと彼女を見続ける。
もしかすると、彼女の姿に目を奪われていたのかも知れない。
風になびく、色素の薄い髪。
少し赤みを帯びた気もする、柔らかな頬。
そして彼女は、やっと口を開くのだ。
「ええ天気ですねー、センパイー」
ありえねえ。
なんなんだあの間伸びした声。
あのとろんといた眠たそうにも見える瞳。
月詠じゃん?
そりゃあまあ私も中三。
剣道部に入っているので、私のことをセンパイと呼ぶ下級生もまあまあいる。
しかしその人達の中にごすろり、といった類の服を着るような人は居ないだろう。
いや、正直詳しくは知らないが。
居ないで欲しい。
とんでもない夢を見たな、我ながらに思う。
月詠が。
あの月詠が、最愛の人。
苦笑いしか出ない。
悪ければ苦笑いすらも出ない。
…今日はとんでもない日になりそうだ。
早くに起きてしまったので、少し余裕を持って寮を出る。
月詠か。
歩きながら、奴のことを少し考える。
ふざけた奴だ。
神鳴流剣士とあろう者が、あんな、ひらひらしたものを。
いつかに長谷川さんが似たようなものを着ていたのを見たことがある。
…ごすろり。
戦闘には胴着に袴で充分だろうに。
「そんなことありませんー、女の子のお洒落やないですかー」
変な声が聞こえた。
慌てて辺りを見渡すも、奴の姿はない。
気配を探っても、それらしいものは見当たらない。
「…ははは、気のせいだ。きっと」
一人の、ぽつりと呟く。
幻聴だろうか?何にせよ、あんな夢を見なければ…
「ん…」
見覚えのある小さな背中。
赤毛をぱたぱたと風に揺らしながら、緑色のスーツを几帳面に着こなした少年が走る。
あれは、ネギ先生か。
教師というのは、このような朝方から走り回る仕事だったのか。
子供だとは思えない仕事熱心さには、感心させられるばかりだ。
「ネギ先生!おはようございます」
「あ、刹那さん!おはようございます」
私が挨拶すると、ネギ先生はわざわざ立ち止まって礼をする。
その真面目さにも感心を覚えつつ、進みながら話しましょう、と促す。