注文の多いエヴァ邸別荘
「ああ…まずい。完璧に遅刻だ。せっかくお嬢様達が特訓してくれようとしているのに」
放課後の学園を、刹那は一人走る。
部活が予想以上に長引き、木乃香達との特訓に遅れてしまっているのだ。
その特訓の会場となるエヴァンジェリンの別荘を目指し、全力疾走した。
「やっと着いた…失礼します」
中に入っては見たが、主であるエヴァンジェリンの姿が見えない。
不審に思って、もう一度声をかけてみる。
「すみません、失礼します!」
「ケケケ、マスターハ今取リ込ミ中ダ。勝手ニ入ッテイイゼ」
そんな刹那に声をかけたのは、エヴァンジェリンの従者であるチャチャゼロ。
「取り込み中?」
オウムの様に繰り返す。
するとタイミングよく、取り込んでいるというエヴァンジェリンの声が聞こえてきた。
「や、やめろ!茶々丸!私だって刹那を…!」
「マスター、浮気は駄目ですよ。お仕置きです…」
「茶々丸さんと何かしているんですか?」
「マアソノ辺ハ想像ニ任セルゼ、ケケ」
想像と言われても、上手く浮かばない。
考えるだけ無駄かと区切りをつけて、先を急ごうとする。
「エヴァンジェリンさんには申し訳ありませんが、お邪魔しますね」
「オウ、伝エトクゼ」
目指すは別荘。 エヴァンジェリンの叫び声を聞き流し、刹那は走り出した。
階段を降り、地下へ行くと、球体に入った模型の別荘が見える。
その中へ入ろうとした刹那の視界に、数枚の貼り紙が入った。
「えっと…貼り紙に従った格好をして入れ?」
なんのことだろうか。
しかしこちらは稽古をつけてもらう身。
刹那は貼り紙に従うことに決めた。
1枚目の貼り紙・木乃香
『この服に着替えてきてな、せっちゃん』
「これは…水着?そうか、水辺で特訓するのか。
動きにくくないよう配慮して下さるなんて…優しいな、お嬢様は」
2枚目の貼り紙・龍宮
『このヘアバンドを付けてこい』
「なんだこのヘアバンドは…耳が付いているが。
なるほど…髪が邪魔にならないよう、龍宮なりの心遣いか」
3枚目の貼り紙・のどか
『刀を置いて、この枷を付けてきて下さい』
「枷か、限られた範囲を有効に使うのは大切だ。
基礎となる身体能力を鍛える為に、素手で戦うんだな」
4枚目の貼り紙・千鶴 『このネギを持ってきて下さいね』
「ね、ネギ?…これに気を込めて、折らないように戦えということか。
厳しい特訓だが、 有意義なものになりそうだ」
「皆さん申し訳ありません!部活で遅れてしまって…」
そう叫んだ瞬間、尋常ではない速さで振り向く人影が4つ。
「いやいや、えーんよせっちゃん」
「遅れた時間なんて、僅かなものだ」
「そんなこと気にしなくていいですよ」
「ネギを持ってきてくれて、ありがとうね」
嫌に笑顔な4人を多少不審に思いつつも、千鶴が差しのべた手に長ネギを握らせる。
その瞬間だろうか。
千鶴の目の色が変わったことに刹那が気付くこともなく。
4人はゆっくりと動き出した。
「さあ、せっちゃん」
「そろそろ始めようじゃないか」
「私…頑張ります」
「ネギが無いと生きられないような体にしてあげるわ…」
「へ…?あ、あの、皆さん?何で私を囲むんですか」
4対1の至近距離かとも思ったが、どうも様子がおかしい。
何で皆ハアハアいってるんだ…
「それはやね」
「私達は」
「今から刹那さんに」
「ネギを入れるからですよ」
急に視界が揺らぎ、背中に何かがぶつかる感じがする。
その衝撃で息が吐き出され、少し苦しい。
しかし刹那にはそんなことを気にする暇もなかった。
押し倒され、四人分の手が自分を襲い始めている。
皆の顔や息使いが恐ろしい。
なんだ、ここは地獄か。
「え…ま、待って!いや…いやあああああぁぁぁっ!!」
終わり
おまけ↓
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