星空の下
「風呂上がりに夜風を浴びると、風邪を引くでござるよ」
五右衛門風呂の火をテント近くの薪に移し終わって、楓は木の幹に寄りかかっている刹那に注意をする。
注意をされてしまった刹那は、楓を見てふっと微笑んでから空を見上げる。
「いいじゃないか、今日くらいは。こんな星空なら、風邪を引いたって見ていたい」
「ほう…確かに見事な星空ではあるが… そこまで感動するものでござろうか?」
楓はいつの間にか刹那の隣に座り、同じ様に幹に背を預ける。
問われたことにそうだな、と頷いてから刹那はまた空を見上げる。
そんな彼女を数秒見つめ、再び同じ様に楓も空を見上げる。
「なんで感動するのか、か」
「そんなに深い意味の質問ではない、悩むことはないでござるよ」
感動するものに、理由は要らない。
楓自身、今まで感動してきたことは沢山あった。
しかしそれは、〜だから感動した、と答えられるような理由の無いものばかりだった。
見上げすぎて疲れたのか首をマッサージしながら、刹那はそうだな…、と呟いた。
「星空だけじゃないのかもしれない」
「…む?」
刹那の伝えたい真意がいまいちよく分からない楓は、気の抜けるような返事をする。
上に向けていた顔を顔をこちらに向け、困ったように笑う刹那を見つめる。
「楓と一緒に見る星空に、感動しているのかもしれないな」
「ふむ、拙者と一緒に見るからか…確かに普段のお主は、
疲れているのか空など見ずにすぐに寝てしまうでござるな」
「はは…ここは修行に適しているからな。つい無理をしてしまって」
それではどちらを選んでも最後には体を壊してしまう、楓はそう思った。
小さな子供のように星空に夢中になっている刹那の手を掴み、半ば無理矢理立ち上がらせる。
「それにしても、ここは少々寒い。テントから顔を出して見るのも、中々乙なものでござろう」
「しかし、焚き火の光があっては小さな星が見えなくなってしまうぞ」
残念そうに楓を見上げる刹那。楓はその頭を一撫でして、微笑む。
「消せばいいではござらんか。寒くなったなら、二人でくっつけば暖かい」
「…そうだな。それも中々乙なものだな」
互いに顔を見合わせ、また微笑む。
焚き火を消して、テントの中へ。
「寒くはないか」
「平気でござるよ」
二人で見上げた星空の下。
囁きあっては、身体を寄せた。