紅薔薇さまは、どうしていつも真ん中にいるんだろう?
昼休みにクラスメイトと話をしていて、薔薇様方の話題があがった。
そこで祐巳は紅薔薇のつぼみの妹になるまでの薔薇様方をイメージしていた。
そして、あることに気付いたのだった。
祐巳の知る限り、薔薇さま方が集合するといつも真ん中に紅薔薇さまがいる。
何か理由があるのかと思い、祐巳は実際に聞いてみることにした。
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中心の理由
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「紅薔薇さまは、どうしていつも真ん中なんですか?」
三薔薇揃ってのお茶会。
紅茶を淹れ、戻ってきた祐巳は紅薔薇さまに紅茶を差し出しながら疑問をぶつけてみた。
すると薔薇様方は顔を見合わせ、くすくすと笑い出した。
「何を言うかと思ったら」
「やっぱり祐巳ちゃんって……」
「面白い子だねー」
黄薔薇さま、紅薔薇さま、白薔薇さまが順番に口を開く。
台本でもあるのかと疑ってしまうくらい、連結した科白。
「紅薔薇さまが真ん中にいる理由ねぇ」
「それはね、祐巳ちゃん」
そこまで言ってくすくすがにやにやに変わる黄薔薇さま、白薔薇さま。
「私たちは紅薔薇さまが大好きだからだよ」
全くと言っていいほど同じタイミングで紅薔薇さまに抱きつく二人。
一方溜息をつきながらそれを振りほどこうとする紅薔薇さま。
「そ、そんな理由があったんですか?」
それを本気で信じこむ祐巳を見て、にやにやは大笑いに進化する。
「って、いうのもいい加減あきたね」
「そうねー」
満足するまで笑ってから、紅薔薇さまを解放する二人。
続けて『本当は理由なんてないんだよね』『気付いたら真ん中だったね』なんて言い出す。
だったら何でそんな嘘つくんですかと祐巳が言うと、ファンサービス、とキッパリと切り捨てられた。
「新しい理由、考えてみようか」
「そろそろ新しいネタが欲しいわね」
優雅に笑いながらも、どんどん話を進めていく。
その会話に入れない当事者の紅薔薇さまとネタを振ってしまった祐巳は、
その様子を黙って見ているしかなかった。
「そういえばさ、真ん中の人って早死にするってよく言うよね」
「あー、小学校の頃とかよく聞いたわね、そういうの」
「蓉子は早死にするのかー」
「可哀想にねぇ……あ、蓉子。葬式には出てあげるから。安心して」
「……はぁ……それはどうも……」
最愛の親友二人に『早死に』と連呼されたのだ。
哀愁に満ちたその姿に、思わず無関係の祐巳の目頭も熱くなった。
「あ、そうそう。水戸黄門も真ん中よね」
「早死に?あ、おじいさんか、もう」
「それもそうね」
そう言って笑い出す二人。
「……あー……」
もう話が逸れている。そう思ってはいても、祐巳につっこむ気力など無い。
助けを求めて紅薔薇さまを見るも、祐巳以上にげんなりとしている。
それは何時もの気品に満ち溢れた顔とは全く別人で、祐巳は心の中で合掌をした。
「もしヒットマンに無差別に撃たれるなら一番狙われやすいね」
「外れても左右のどちらかに当たる確率あるものね」
「蓉子はヒットマンに狙われやすいのか!」
「なるほど、それで早死になのね。謎は解けたわ!」
謎は解けたって。殺人事件に発展ですか。
真剣な顔で納得しあっている二人。謎が解けて出てきた答えに本気で感心している。
そんなに本気ならさ、そこで凹んでる紅薔薇さまを本気で心配してくれよ。
訴えかけた祐巳の両手は、ヒートアップする二人の肩を掴むことなく空を切った。
「じゃあそれで撃たれても両肩担いで運べるとか?」
「なるほど、だから真ん中」
「……撃たれるようなことしてないわよ」
「……そっか。じゃあこの案はダメだねー」
さっきまで凹んでいた紅薔薇さまが、なんとか反撃に出た。
想像の中とはいえ、やはり自分が撃たれるのは許せなかったらしい。ナイスファイト!
紅薔薇さまの抗議を案外あっさりと受け入れ、黄薔薇さまと白薔薇さまは新しい案を探し始めた。
「そういえば蓉子って真ん中で分かれてるね、髪の毛」
紅薔薇さまの額辺りを見つめながら、白薔薇さまが言う。
「あ、だから真ん中なのね。中心がどこか分かりやすいもの」
新しいネタ、見つけたりと食いついてくる黄薔薇さま。
一方紅薔薇さまは理由はどうあれ白薔薇さまに見つめられ頬を赤く染めている。
それでいいのか、紅薔薇さま。
「蓉子は左右対称かー」
「なんか切り絵作りやすそうね、真ん中分けだと」
何時如何なる状況に陥れば紅薔薇さまの切り絵を作ろうと言う状況になるのだろうか。
それだけは聞いておきたい祐巳だった。
「ん?どうしたの祐巳ちゃん。なんか言いたそうな顔して」
しかしそれは言えない祐巳だった。
言えません、言ったら私もつるまれるから、絶対に……!
現在進行形でつるまれているお方を哀れむような目で見ながら、一人涙する祐巳だった。
「扇風機の首振りだと、一番得しない?一番長く風に当たっていられるしね」
「左右の風のおこぼれも期待できるしね」
ころころと切り替わる話に、祐巳はついていくのがやっとで、
つっこみなんてできるレベルではなかった。
そう思っている間にも話はまた変わってゆく。
「真ん中ってさ、アンケートでいう『はい・いいえ』の中心の点だよね」
「微妙な質問だと、そこに○つけたくなったものね」
「あ、それ私もあります。中途半端な答えとか」
「……祐巳ちゃん……」
しまった、乗ってしまった。と祐巳が思ったときにはもう遅かった。
ずいずいと紅薔薇さまに近づいてゆく二人。
「じゃあ蓉子って何でも中途半端なの?」
「何よそれ。ただのダメな人じゃない」
「まったく。ダメじゃない蓉子」
「そうよ。今からでも遅くないわ。人生考え直しなさい」
先程まで呆然としていた紅薔薇さまを取り囲んで説教を始める黄薔薇さまと白薔薇さま。
何故か説教を喰らっている紅薔薇さまの表情に、だんだんと怒気が混ざってゆく。
そして、ぷっつん。
「ダメ人間はあんた達でしょうがっ!」
きれいに響いた紅薔薇さまの怒声。
お姉さま、今日も山百合会は平和です。
了
あとがき
『扇風機の首振り〜』の所を考えていて、突発的に浮かんだSS。
ギャグにしようと思ったのにつまらない展開になってしまいました。アウアウアー
俺の頭は暇さえあるとくだらない事考えてます。甘々書けるようになりたいなぁorz